うちの旦那はオネエ様

地方在住、ホモのひとりごと

160センチに満たないホモのひとりごと

 

 

 

 

 

先日、私は25年ほどの付き合いになるノンケの友人を訪ね、

関東地方のとある町に行った

1年に1度の恒例行事みたいなものだ

 

朝っぱらから酒を酌み交わし、

思い出話に花を咲かす

 

私と彼は同じ「山小屋」で働いていた

話していることなんて毎年ぜんぜん変わらないだろう

変わるとすれば、その思い出が1年ずつ遠ざかっていっているってことだけだ

 

飯食ってる時にお客さんが「(ボットン)便所に財布落としたんです!」って入ってきて、

糞まみれになって拾って上げたら

糞まみれの一万円札をくれた、とか、

始めての「汲み取り」で便槽に入った時、

壁がウジ虫の卵だらけで卒倒しかけた、とか、

便座の穴から差し込む光を見て、

いつか這い上がってやると感じたとか、

汲み取りの日は必ずカレーだったとか、

う○こにまつわる話は尽きることがない(笑)

 

さんざん飲みまくった夕方になって、

友人の息子が姿を見せた

今や高校3年生になり、すっかり逞しくなった

 

小学生の時は私の顔を見ると、

「かずとくーん!」と飛びついてきたものだが、

中学生になると

「どうも、ご無沙汰してます」

みたくなり、

高校生になるとすっかり声変わりして

「うっす」みたくなった

 

無論、高校生であるから、

明るいうちから飲んでいるどうしようもないオッサン2人を若干冷ややかな目で見つめ、

自分の部屋へと消えていったのであるが、

その後、友人の奥さんの運転で晩飯を食べに行くことになった

 

この時、息子が車の中でかけたのが米津玄師さんの

「灰色と青」という曲だった

私はすっかり酔っ払って後部座席にいて、

車窓を眺めつつ歌詞の一節を口ずさんだら

「え、かずとさん、知ってるの!」と息子が驚いた声を出した

 

「俺、めちゃくちゃハマってるねん。今日も新幹線の中でずっと聴いてた。『灰色と青』なんか一日聴いてても飽きひん」

と言ったら、

「え、マジ?、俺もめっちゃ好きなんすよ!!」

と、その後の晩飯の時間は2人で米津玄師さんの話に夢中になっていた

 

男子高校生と話のきっかけをつかむには、

米津玄師さんは最適かもしれぬ(笑)

 

食事を終えて帰宅したら友人は酔いつぶれて寝てしまい、

私はしばらく息子と話をしていたのだけど、

短パンに履き替えた私のスネをみた息子が、

「かずとさんはいいなあ」という

「何が」と問えば、

「スネ毛っすよ、俺の足、ボウボウなんです」と

ジャージのすそをめくる

 

確かに毛深いっちゃ毛深いのかな、とも感じたが

それでも一般的なものではなかろうか、とも思う

ちなみに私は腕も足もほぼ無毛と言っていいし、

逆にそれがコンプレックスのひとつだったんだけどね(笑)

 

ついでに、身長の伸びがストップしたことも悩みのタネらしい

今現在で168センチとのこと

160センチに満たない私からみれば十分すぎるくらいでかいけど、

彼にしてみれば深刻な悩みだそうだ

これに関しては私も有意義なアドバイスができる

 

「昔っから食べないと大きくならないよ、とか言われてきたけどさ、実際に大人になってみたら、背が高いってすんごい大変なことだと思う。みんなしょっちゅう頭ぶつけてるけど、チビならそんな心配もない。でかい荷物があっても、みんな遠慮して率先して運んでくれる。何よりすぐ見た目で覚えてもらえる」

 

「ま、女の子にモテるかどうかに関しては不利だし、ライブとか行っても前に背が高い人がいたら見えない」

とは正直に付け加えておいた

 

「やっぱりもう少し背が高くなりたいな」と友人の息子は笑った

 

あと一回だけ、背が低くてつらい思いをしたことはあるのだけど、

それには触れなかった

 

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後から思えば人生ってすんごい面白いなあ、と思う

 

私は小学校、中学校と背が低いことを悩んでいたけど、

「おまえくらい背が低いとテントでもスペースをとらない」と

廃部寸前だった山岳部の顧問に声かけてもらって、

それがきっかけで山に登り始めた

 

結局山岳部が廃部になったから山小屋でバイトして、

その流れでスキー場でバイトすることになって、

大阪から夜行列車に乗って今住んでいる町に着いて、

乗り継ぎの私鉄の電車の待合室で始発を待っている時に

怪しげな男を見かけた

 

真冬の夜明け前で恐ろしく寒く、

私はダウンジャケットに首を埋めて電車を待っていたのだけど、

その人はなぜかタンクトップに短パン、

頭にバンダナ巻いて、ビールを飲んでいた

 

当時高校3年生だった私は

「絶対に関わってはいけない人物である」

と本能的に判断し、目をそむけ、電車に乗ったのだけど、

その人がまさか同じ職場で働くなんてことはまったく考えはしなかったし、

その後自分が40代半ばになっても付き合いがあるとは予想だにしなかった

そう、今回会った友人である

 

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話は前後するが

山小屋でバイトしてた高校生3年生の夏、

小屋番の人たちが登山道の補修か何かでどっか出かけてて、

私が一人で留守番していたら

眼の前にいきなり血まみれのオッサンが現れて失神しそうになったことがある

 

登山道で滑落したのだけど、

何とか這い上がって小屋までたどり着いたらしい

私は無線機で近隣の小屋に連絡を取ったのだけど

その時駆け付けてきてくれたのが山岳警備隊の方だった

 

私はその時の山岳警備隊を見て、

心底カッコイイと思った

こうやって、人の役にたてる仕事をしたい!と思った

 

その後、多くの山岳警備隊の方と接する機会があり、

筋骨隆々、かつイケメンな方も多かったこともあり(笑)

私の「山岳警備隊になりたい」という思いは募っていった

 

しかし、山岳警備隊という職業がある訳ではなかった

彼らはあくまで「おまわりさん」すなわち警察官である

要するに、山岳警備隊になるには警察官にならないといけないのだ

 

私は警察官の募集要項を取り寄せた

するとそこには「身長160センチ以上」と書かれていた

私は体力だけは自信があったもので、

県警に出向いて「これ、何とかならないものですか」と尋ねてみたが、

「何ともならんなー」で終わりだった

 

私が社会人になって、「背が低い」ことを心底悔やんだのは、

後にも先にもこの時だけだ

その後、160センチに届くためにありとあらゆる努力をしたが、

1ミリたりとも身長は伸びなかった

ようやく諦めがついたのは20代も終わりの頃だ

山岳警備隊になりたいと思ってから、すでに10年以上たっていた

 

身長というのは私にとってどうしても越えられない壁だった

私は「できない」ことに執着し続けた挙げ句、

諦めるのにとんでもない時間を要したことになる

 

言っとくがホモだからといってできない仕事なんて何ひとつない

 

しかし背が低いとやりたい仕事の受験資格すら与えられないのだ

LGBT就活なんて聴いただけで「ふざけるな」と言いたくなるよ、

マジでさ(笑)

 

 

 

警察官の受験を見送らざるを得なかった私は

冬からその山小屋が経営するスキー場のロッジで働くことになった

 

そこで出会ったのが今回の友人、といった流れになる

年齢は私のちょうどひとまわり上

 

もともと芸人志望だかで上京して、

さっぱり売れずに職を転々として

酒に溺れて嫁さんと別れ、

知り合いのツテをたどって住み込みの仕事をもとめていた

 

私が会ったのが確かそんな状況の時で

完全にアルコール依存症だった

私の仕事なんて、

彼が酒を飲まないように見張っておく、ことだったのではなかろうか(笑)

 

でも、私が寝ると、飲んでるのよな

 

朝、目をさますとそこに取っ手付きのウィスキーのボトルが空になって転がっていて、

彼の姿がない

げ、何処行った!

 

外は猛吹雪

 

館内のトイレとか一通り探してけどいない

何処に行ったんだよ、と途方に暮れてたら、

ボイラーが切れて冷水になった浴槽につかり、

たまたま首から上は外にはみ出た状態で爆睡していた

 

一歩間違えれば死んでいた、

なんてことがたびたびあった

 

まあ、何せ、当時18歳くらいの若造が相手にするには、

なかなか強烈なキャラクターであったことは間違いない

 

彼とはこの後山小屋でも一緒に過ごしたが

結果的に酒でやらかして、地元へ強制送還となった

 

で、今となっては彼の方がまっとうな生き方をしており、

むしろ私がアルコール依存症と化しているのだから人生は面白い(笑)

 

さらに言えばそのスキー場や山小屋の仕事の流れがあって私は今の町で暮らし、

今の旦那とも出会っている

 

仮に私が高校生の時に170センチくらいの普通の身長があって、

山岳部の顧問に声を掛けてもらえなかったら、

地元でふつうに働いていた可能性だって多々あるし、

大学への進学なんてことも真剣に考えた可能性だってある

 

仮に160センチあれば、山岳警備隊になれていた「かも」しれない

しかしながら、長年可愛がってくれた警備隊の方は、

数年前に訓練中の事故で亡くなった

 

小屋閉めを終えて下山途中に、

さっきまで一緒に歩いていた同僚が滑落して亡くなったこともある

 

人生、どこでどうなるかなんて何も分からない

明日が来るなんて保障はどこにもない

 

うだうだ文句ばっかり言ったり、

不安を煽るような言動を繰り返している方は、

そういったことに気づいておいた方がいい

 

 

 

結果論にすぎないけれど

160センチに満たない身長のおかげで、

いろんな人と出会うことができたなあ、

と、しみじみ思う

 

さまざまな偶然と必然が積み重なって、今に至っている

 

悔しい思いもしたことはある

でも、今となってはすべて笑い話だ

 

帰りの電車に揺られて駅に降り立てば、

迎えに来てくれた旦那が

改札口の向こうでスマホをいじりながら立っている

 

私が近づくと、気配を感じたのか、

「おかえり」と小さく笑い、

「ただいま」と私は返す

 

私は回り道や失敗を繰り返し、

あれやこれやともがきまくっていたけれど、

最終的にもとめていたのは

「好きな男と一緒に暮らす」ことだったのよな

 

そりゃ、旦那との関係に

不安なことがないわけじゃない

 

でも、不安や不満ばっかり述べるより、

その一日一日を精一杯楽しんだ方がいいと思ってる

 

「ただいま」

「おかえり」

そんな些細な言葉を交わす相方がいる

ホモにとって、これ以上のシアワセってあるのだろうか

 

私は一人のホモとして今後も

「できない」ことを並べるより、

「できる」ことを探していきたい